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東京地方裁判所 昭和44年(行ク)61号 決定 1969年10月11日

申請人

伊藤邦彦

外一八名

代理人

尾山宏

外四名

被申請人

東京教育大学長

学長事務取扱

宮島竜興

代理人

横山茂晴

外五名

申請人等の執行停止申請事件

(本案当庁昭和四四年(行ウ)第二一二号入構不許可処分取消請求事件)について、

当裁判所は、被申請人の意見をきいたうえ、次のとおり決定する。

主文

一、被申請人が、昭和四四年一〇月四日付の告示をもつて申請人等に対してなした「同月六日より当分の間、東京教育大学構内えの入構証を持たない入構を午後三時から午後四時三〇分(ただし、土曜日は午前一一時から午前一二時)までとする」旨の処分の効力は、申請人吉田治夫を除くその余の申請人等が別表(一)記載の各授業を受けるため入構する場合に関する限り、当裁判所昭和四四年(行ウ)第二一二号事件の判決の確定に至るまで、これを停止する。

二、申請人吉田治夫の本件申請およびその余の申請人等のその余の申請部分を却下する。

三、申請費用は被申請人の負担とする。

理由

一申請人等の本件申請の趣旨および理由は、別紙(一)ないし(四)のとおりであり、被申請人の意見は別紙(五)のとおりである。

二疎明によれば、申請人等は、いずれも東京教育大学文学部の学生であるが、同学部が学園紛争のため中絶していた授業を昭和四四年一〇月一日再開したので、これを受けるため、右同日から登校していたところ、被申請人は同月四日申請人等を含む学生一般に対し主文第一項掲記の処分をなすとともに、学生が大学構内に入るには一定の入構許可申請手続を経由して入構証を得ることを必要とする措置を講じたこと、そして右入構許可は、事実上文学部教官のうち学園紛争の解決につき被申請人の方針を支持する三八名が同年六月から実施していた授業を受けることをその担当教官に申出た者のみに付与されるに止まり、また、かようにして付与された入構証を右三八名以外の文学部教官が行う授業を受けるために利用することができないこと、申請人吉田治夫を除くその余の申請人等は、それぞれ別表(一)ないし(三)記載の授業を受けることを希望しているものであるが、入構手続が右のような実情にあるため、右処分の日以降、前記三八名以外の教官による別表(一)記載の授業を受けるため入構することができないこと、これから推しても、被申請人の右処分が存続する限り右掲の申請人等は、これにより卒業または進級に必要な科目の履修が不可能となることが認められるから、右申請人等は右処分により回復困難な損害を蒙るおそれがあるというべきであつて、右損害を避けるため、右処分の効力を停止すべき緊急の必要があると考えられる。

しかし、別表(二)記載の援業については前記三八名の教官が担当することは疎明上、明らかであるから、これを受けるためには被申請人の定めた前記手続により入構証を得て入構すれば足り、また別表(三)記載の授業が文学部の再開にかかる授業中に存在することを認むべき疎明はない。したがつて、以上の授業を受けることができないため損害を受けるおそれがあることを前提とする申請人等の主張は採用することができない。

そしてまた、右申請人等が授業を受ける以外の目的で入構することができないことにより回復困難な損害を蒙るおそれのあることを認めるに足る疎明はない。申請人吉田治夫については、本件処分により回復困難な損害を蒙るおそれのあることを認めるに足る疎明はない。

三被申請人は、文学部教授会が被申請人の学園正常化に関する方針を過半数で全面的に了承し、その結果、文学部教官全員による統一的な講義の実施が可能となり、また学生の入構検問に文学部教授会の協力が得られる見透しが付いたと主張し、疎明によれば、文学部教授会と被申請人ならびに全学的審議機関たる評議会との間に大学内の統一的な授業の再開および入構手続等をめぐつて学園正常化に関する協議が進められ、ある程度の歩み寄りがみられたことを認め得ないではないが、右両者間には今なお学生の入構手続に関し根本的な見解の対立が存在し、にわかに氷解しがたい事情にあることの疎明もあるから、右のような事情の存在だけでは本件処分の効力を停止すべき緊急の必要性を否定することはできない。

四以上の理由により、本件申請は、申請人吉田治夫を除くその余の申請人等の別表(一)記載の各授業を受けるため入構する場合につき本件処分の効力の停止を求める限度で理由があるものとしてこれを認容し、申請人吉田治夫の申請およびその余の申請人等のその余の申請部分を理由がないものとして、これを却下することとし、申請費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九二条但書を適用して主文のとおり決定する。

(なお付言すると、本決定は、もとよりこれによつて実質的に本案訴訟の対象となつている入構制限の適否等を判断するものでないばかりでなく、今後、東京教育大学が本決定の趣旨とするところに抵触しない限度において新たな入構手続を定めることをもなんら妨げるものではない。(駒田駿太郎 小木曾競 山下薫)

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